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| 入院編
クリスマス前後から、朝起きたらすぐにナースセンターのそばに常備してある体重計のところまで行き、体重を量るのが日課の一つとなる。短い距離だが、軽い運動代わりにはなるし、体重の動向も水がどれだけ抜けたかの指針にもなり、励みにもなる。とはいえ、この体重の減り方は単に水が抜けただけでは説明できない気もする。
隣のベッドに入室したK氏。過度の酒や煙草の摂取で肝臓を悪くしたようだが、もちろん病室内では禁煙、喫煙場での喫煙も禁じられている。それにも関わらず独り言でしきりに「タバコ吸いたいタバコ吸いたい」と繰り返す。また、起床時間前の朝5時ごろからビニール袋をしきりにがさがさと開けて騒がしくするだけでなく、イヤホンもつけずにテレビを見て、こちらの睡眠の邪魔をする。
また、怒鳴り声のような咳をし続けるドラゴンオヤジは一時別の部屋に移って静かになった。だがその代わりに、しきりに夜中に病室の扉を勢い良く開け閉めする患者が入ったようで、相変わらずうるさい。看護師の注意を引きたいようだが、単なるはた迷惑。
朝食はご飯、味噌汁、納豆、もやしの和え物、海苔。
午前中昼寝をして昼飯前になったが、どうも朝食以降隣のK氏の気配がない。トイレにしては長すぎるし、検査や手術のことを看護師に言われていた様子もない。入院したばかりなので外出許可が出るはずもないのだが、と思っていたら、なんと病院から脱走していたらしい。
脱走先は病院近所の親戚の家。その親戚が元看護師だったのですぐに状況を察し、病院に連絡が行き、昼前には連れ戻されてきた。手につけていた点滴などは自分で外し、隠していた服を着てタクシーに乗ったようで、涙ぐましい努力だけはほめてあげてもよいだろう。だがした事自体はとてもほめられるようなものではない。
脱走した理由については初入院で退屈だっただの、煙草を吸いたいだのわがままな話ばかり。そもそも何のために入院したのかも分かっていないようだ。「大の大人が……」と端で聞きながらあきれ返る。しかも「初入院だから」というのも、後で家族との間での「前の病院では奇声をあげて怒られたばかりなのに」という会話から、ウソだったことも分かり、二度あきれ返させられた。
昼食はパン、グラタン、ジャム、きゃべつとトマトとレタスときゅうりのサラダ、りんご。
先日、隣の病室に入室した、記憶障害があるかもしれない患者のところに身内と思われるお見舞い客が来ていた。どうやら身元が判明したらしい。他人事ながらまずは一安心。
夕食。ご飯、ぶりの味噌煮、かぼちゃ、きんぴらごぼう、ほうれん草といり卵。
元々隣のK氏はヘビースモーカーだったらしく、ヤニくささを多少は感じていたのだが、どうも今日の夜はそのくささの度合いが大きい。脱走して煙草を吸いまくったからではないかと思っていたが、そうではなかった。実は隠れてベッドの中で煙草を吸っていたらしい。先に脱走した際、煙草や灰皿をこっそり持ち帰っていたようだ。
患者の病状以前の問題で、病室内はもちろん禁煙である。おまけにベッドは火がつきやすいようにも見える(耐火性になっているかどうかは不明)。万が一火事になったり、スプリンクラーの作動で水浸しになったら、隣にいる自分まで迷惑を被ってしまう。いや、火事で焼け出されたら迷惑どころの話ではない。病室で焼死、なんて笑い話にもならない。
だが悪い事は出来ないものだ。23時過ぎに看護師に見つかり、一度は警告と煙草の没収だけで済んだものの、その直後に別のところに隠していた煙草でまた喫煙。再度見つかり、今度は雷が落ちた。
病院全体の防火の件もあわせ、重大な問題行為と判断されたようで、結局K氏は朝までベッドに文字通り「拘束」されることになった。下手すれば火災の引き金になるし、火災報知器などが反応すれば見回りの不備として問題になるから、当然の処置といえよう。こちらは寝ていることになっているので具体的に何がされているのかは見られなかったが、ともかくこちらの最低限の安全は確保されたようだ。
それにしても1日で病院脱走と身柄確保、寝煙草、ベッドへの拘束と、「普段はどういう生活してるんだ」と思わざるを得ないことばかりする人だ。
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